【薄型ディスプレイシリーズ】キヤノン、NEC傘下の2企業買収
8/25の日経新聞によると、キヤノンが25日にNEC子会社のNECマシナリーとアネルバを買収するとのこと。
キヤノン、NEC系の2社買収・薄型TV技術に的
キヤノンは25日、NEC子会社で大阪証券取引所2部上場のNECマシナリーとアネルバ(東京都府中市)の2社を買収すると発表した。次世代の薄型テレビ用パネル「SED(表面電界ディスプレー)」を来年投入するキヤノンは半導体製造装置関連メーカーである両社を傘下に収めることで生産技術を向上し、価格下落が目立つ薄型テレビ市場でのコスト競争力強化を狙う。
キヤノンは26日からNECマシナリー株式をTOB(株式公開買い付け)で取得する。買い付け予定価格は1株あたり1212円。筆頭株主のNECと関西日本電気の株主上位2社が公開買い付けに応じることで合意しており、約51億円をかけ発行済み株式総数の53.87%を取得する。
公開買い付けの期間は今月26日から10月12日まで。買い付けの上限は設けず、完全子会社化した場合の買収総額は約95億円になる。
アネルバはNECの全額出資子会社で、キヤノンがNECから全株式を9月30日付で譲り受ける。買収額は明らかにしていない。アネルバは半導体の微細化の鍵を握る真空装置を製造している。 (21:00)
さて、今回の買収の狙いとしては・・・
・SED商業化に向けた投資(コストダウン・製造技術の向上)
・製造装置の内製化・それに伴うコストダウン
が指摘されています。
キヤノンといえば「プリンタ・カメラ・コピー機」あたりがよく知られていますね。しかし、それ以外にも光学技術を生かして、半導体製造装置を生産しています。
しかし、もともと自社の持つ光学技術をベースとした製品が多く、「半導体の検査」「光による加工」以外の分野が弱い面がありました。
また、SED事業の立ち上げにあたっても、自社でパネル製造の技術を持っていないため、0から立ち上げるのには困難が予想されていました。
キヤノンのプレスリリースによると・・・
NECマシナリーは、自動化機器の設計製作について高い技術を保有しておりますので、
本公開買付けは、当社製品の生産工程における自動化をはじめとする生産革新活動のさらな
る進展に大きく寄与するものと考えております。一方アネルバは、高真空技術をベースとし
た薄膜形成技術を保有しており、当社の新規事業であるディスプレイなどの製品差別化に欠
かせない製造装置の内製化に大きく寄与するものと考えております。
NECマシナリーは、ダイボンダーと呼ばれるチップを基盤などに装着する装置で、国内第1位、世界でも第2位の地位を占めます(2005年四季報 夏号)。また、基盤切断装置なども手がけており、キヤノンが持っていない「自動化機器の設計製作」を持っているとみてよいでしょう。
アネルバは、薄型ディスプレイ関連の製造装置を手がけており、また半導体製造装置でも「ドライエッチング」による半導体加工装置を日本で最初に手がけるなど技術の高さに評判があります。特に同社が持つ薄膜製造技術は、SEDの自社生産をより低コストに行いたいキヤノンには、必要不可欠といってもよいでしょう。
EEtimesによれば、下記の点がアネルバ取得に大きく働いたようです。
未公開企業であるアネルバの株式をすべて取得する。取得価格は非公開とした。アネルバは、高真空技術を利用した薄膜形成技術を保有している。今回、キヤノンはアネルバを子会社化することで、SEDパネル用の製造装置を内製する。キヤノンは高真空管技術を利用した薄膜形成技術を保有しておらず、SEDパネルの製造装置は、東芝の子会社である芝浦メカトロニクスに主に開発を委託している。このため同社は以前から、買収による技術取得を検討していた。
会見したキヤノン代表取締役社長の御手洗富士夫氏は、「製造装置は、SEDパネルの競争力を高める源泉になる。SEDパネルの製造コストを低減するには、製造装置までを自前で用意しなければならない。他社に頼っていてはだめだ」と述べた。
また、製造技術全般について、御手洗社長は次のとおり述べています。
(「製造装置こそが競争力の源泉」–キヤノン、NEC子会社2社を買収 – CNET Japan より)
「デジタルカメラはここ数年で価格が半分に下落したが、当社のデジカメ事業の利益率は変わっていない。これは常に将来を見据えて生産革新の手を打ってきたからだ。セル生産に次ぐ新しい次元のコストダウンには、製品の自動製造化が欠かせない」(御手洗氏)
提携ではなく買収という手段に出たのは、機密情報の漏洩を防ぐためだ。「今後はどういう製造装置を持つかが競争力の源泉になる。優秀な設備を自社で作ることで、経験を蓄え、より製造の能率を高めコストを下げることができる。このためには製品の開発部門と製造部門が一体となり、情報漏洩の心配をすることなく腹を割って交流することが重要だ。従って、2社をグループ化する必要があった」(御手洗氏)
機密漏洩、というと少々大げさに聞こえるかもしれませんが、汎用品であれば「X社がN社の機械を使っている」ということを突き止められれば、それを買い付けて利用するだけでも、ある程度技術を盗み出すことができる、といってよいでしょうね。その意味で、今回の買収劇は金額は多くないにしても、大いに意義があったといえます。
また、両社がキヤノンとの取引があった、という点も買収の一つの要素として働いたのではないでしょうか。
NECが子会社の売却に踏み切った背景については、次回のエントリーで書いてみたいと思います。
【薄型ディスプレイシリーズ】キヤノン、NEC傘下の2企業買収(続き)
前回の記事→【薄型ディスプレイシリーズ】キヤノン、NEC傘下の2企業買収
薄型パネルディスプレイ(FPD)のいま(その4)★ポスト液晶を考える(後編)
ポスト液晶はあるのか、液晶以外の技術を交えながら、ディスプレイについて考えてみる後編。それぞれの技術について利点欠点を見つめながら進めます。なお、本エントリをご覧になる前に、前編でディスプレイ市場について書いていますので、そちらをまずは消化ください。