ライブドアネタから離れて、今回はロシアの航空機産業について触れてみます。
(穴が開きまくりなので、適宜突っ込みお願いします)
まずは日経の該当記事から。(他社でも扱っていますが、共同電を利用しているため今ひとつしょっぱい感じがします)
ロシア、航空機産業統合へ
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【モスクワ=古川英治】ロシアが国内の主要航空機メーカーを2006年末までに統合する方針を打ち出した。旧ソ連崩壊後、世界市場でシェアが低迷しているため、新たな国策会社を創設し、航空機産業をてこ入れする。プーチン政権はエネルギー分野でも国家管理を強めており、戦略産業を国家が主導する動きが鮮明になってきた。
プーチン大統領は22日に開いた国家評議会で「航空機産業はロシア経済の重要分野であり続けるべきだ」と述べ、航空機メーカー統合に向けた法案づくりを命じた。
新会社には旅客機と輸送機を生産するツポレフやイリューシン、戦闘機メーカーのスホイ、ミグなど主要企業すべて参加する見通しで、政府が60―70%出資する計画。同評議会では政府出資と民間投資と合わせ、2015年までに350億ドルを投入し、生産を三倍に引き上げる目標を設定した。国家管理下で外国企業との提携を進め、資本と技術を導入する戦略とみられる。 (07:01)
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1990年代に入り、冷戦後の軍縮を受けて欧米航空産業(というか軍需全般か)の合併が盛んになりました。
市場が大幅に小さくなり、パイの分捕りあいをしている場合ではなくなったためですね。
アメリカでは、ボーイング、ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーチンなどなど。
イギリスでは、10社近くあったのがBAe一社に。
また、その他ヨーロッパでは、ドイツやスペインなどの有力どころが合併し、EADSが誕生していますね。
また、旅客機においては、マグドネル・ダグラスと合併したボーイング、ヨーロッパの航空各社のエアバスが中型~大型旅客機、カナダのボンバルディアやブラジルのエンブラエルが小型機の市場で大きなシェアを占め、他の陣営を蹴落とす勢いです。
そんな中、ロシアの航空機産業は旅客機のシェアを落とし続けていたようです。日経(紙媒体)2/25付の国際面では、旧ソ連時代の25%のシェアが、数%まで落ちているようです。
騒音規制への対応が遅れたのが主因とのことです。
旧ソ連時代であれば、批判しようものなら「反革命罪」の疑いをかけられてシベリア送りにされるのが落ちなので、騒音etc.の環境問題を気にする必要がありませんでした。
しかし、親方ソビエトが倒れ、旧共産圏以外の国に売りつけようとすると、どうしても環境問題を気にする必要が出てきます。
(日本でもちょくちょく騒音がらみで裁判が起きていることからも、このファクターの重要性が窺えます。うるさい飛行機を買って評判が悪くなるなんて、経営者としては避けたいところ)
ただでさえ親方が倒れて資金不足に陥っているため、飛行機が飛ぶことに比べれば重要度の低い環境問題は後回しにされます。で、買う顧客が限られて、ますますジリ貧になっていくわけですね。また、お得意先があまり金を持っていない(戦闘機などの兵器を優先して買う)国が多いので、この点でも不利ですね。
一応自衛隊を運んだ実績はありますが・・・。
その一方、軍用機については冷戦後も比較的大きいシェアを占めています。
理由としては、冷戦時代に旧ソビエトの兵器体系を取り入れた国が多く、それらの国々が大抵冷戦後も資金に乏しかったため、欧米のそれに比べて安いロシア製を引き続き購入していたことがあげられます。西側諸国に比べ、政治面での制限(人権侵害を行っている国や、紛争中の国には売らない、など)がゆるく、セールスしやすかった感もあります(軍人も余っていたので、商品の運用込みでセールスをやっているようです)
そのため、旅客機のときとは逆に「売れる→製造・開発資金獲得→向上→さらに売れる」という循環が生み出されたのではないか、と考えられます。
特に、Su-27やSu-30シリーズがベストセールスとなっているスホーイが、国際舞台において大きなプレゼンスを誇っていますね。
さて、今回の政府の決定ですが、「自前の輸出で稼げるように体勢を固め、次世代機の開発に力を注がせ、確実な安全保障を築き上げる」といった意図があります。
で、自前の資本だけは不十分なので、「オールロシア」の航空機会社を作ったうえで、外国の資本協力を仰ごう、という計画なわけですが・・・。誰がお金を出すんでしょうか?
1.ボーイング
旅客機はそこそこ好調(という割にはエアバスにおされ気味)ですが、軍需は大型機を除けばだめだめ状態が続いています(こっちはロッキード・マーティンにおされ気味)。
戦闘機は、F-4、F-15あたりが現用機ではありますが、次世代機の量産とは今ひとつ縁がありません。
そこで、スホーイetc.の戦闘機をラインナップに加え、市場を開拓するのはひとつの手ではありますね。大型機にしても、対エアバスの意味で陣営に加えておいて損はないでしょうし。
2.ヨーロッパ(の軍事産業)
ここ数年ロールアウトされた軍用機を見ると、ミラージュ2000(だいぶ古いか)あたりはともかく、ユーロ・タイフーンやサーブ・グリペン、ラファールと、セールス状況が微妙極まりない航空機が多々あります。
ヨーロッパ圏以外の旧西側諸国が、アメリカの兵器体系に組み入れられている多いため、なかなか市場に入っていけないことがあげられます。
また、競合企業がひしめくアメリカに比べ、競争面での温さが開発に影響し、性能が今ひとつアメリカ製に劣る、という可能性もあります。
フランス製あたりだと、コストそこそこ性能そこそこのものが生産されているので、小金もち(台湾や、フセイン政権下のイラク)には売れていますが・・・。
なので、比較的売れ筋の商品を獲得することのメリットはありますね。
3.日本
金があって、材料工学、部品作りなんかは進んでいますが、航空機を開発するには足元がおぼつかない現実があります。また、武器輸出3原則のからみもあり、軍用機の開発にも身が入りません。
そこで、航空機というシステムを開発する能力があるロシアと、足りない部分が補える日本がタッグを組むことで、面白いものができるのではないか、と夢想してしまいます(w
ロシアの頭脳と、日本の基礎工業力(ようするにちゃんとした製品を安定的に作る力)の組み合わせって、最強だと思うのですが・・・。
4.中国(2/26追加)
よく考えたら、この国のことを忘れていました(自爆
Su-27やSu-30の導入を進めるなど、航空戦力の近代化を進めていますね。
「資金の出し手となりうるか」という点ですっかり忘れていましたが、装備自体は旧ソ連の兵器体系の延長線でもあるため、アメリカに対抗する上でも買収するメリットは高いと考えます。
また、大型機の製造を自前で行えるようになる、という点でも資金の出し手となるメリットはありそうです。
参考リンク:
2003年時点での航空宇宙産業については、日本航空機開発協会の航空機関連データ集(2004年3月版)が詳細に載っています(詳細すぎて困るぐらいですが)
欧米の軍需企業に比べ、ロシアの航空機産業がたどったここ数年の流れは、あまり知られていないと思います。
Yak-38をこよなく愛する漣(Saza-nami)さんが、まとめサイトを開設しています。
ヤコブレフやスホーイ、ミグについてはこちらがよくまとまっています。
また、そのほかのメーカーを含めた流れについてはこちらをご覧ください。
旅客機については、これまた旧ソ連の航空機を愛するPlechanovさんがまとめサイトを作成しています。
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極西リサーチ
2012年8月に立ち上げた書き物系サークル「極東基礎研究所」を前身とする、業界動向などを調査・分析している個人事務所です。 なお、本業のメーカー系シンクタンクでの仕事が多忙なため、現在更新が停滞しています。
露の航空機産業統合へ 欧米メーカーに対抗
ロの航空機産業統合へ 欧米メーカーに対抗
ボーイング・エアバスに対抗するために
ミグやスホーイ、ツポレフ、イリューシンなどが加わる